15年前、リバプールは破綻の淵に立たされていた。
ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)は、当時のオーナートム・ヒックスとジョージ・ジレットに対し、理事会の再構成を禁じる裁判所命令を取得。
クラブを借金漬けにし、混乱に陥れた2人のアメリカ人オーナーは、ニュー・イングランド・スポーツ・ベンチャーズ(現フェンウェイ・スポーツ・グループ/FSG)への
3億ポンドでの売却を阻止しようと必死だった。
それから15年——。
かつての“混乱の象徴”だったリバプールは、今や世界最高峰のクラブ経営モデルとして称賛される存在になった。
15年の歩み──「混沌」から「信頼」へ
2025年、FSGはアンフィールドのオーナーとして15周年を迎える。
クラブが歩んだ軌跡を5年ごとに振り返れば、その変化は驚くほどドラマチックだ。
【2010〜2015】再建期:信頼を取り戻した5年
リバプールを買収した当初、FSG(当時NESV)はまさに“瓦礫の山”を引き継いだ。
財政の立て直し、施設投資、そしてクラブ文化の再生——。
この時期の最大の成果は、信頼を取り戻したことに尽きる。
【2015〜2020】飛躍期:クロップという奇跡
2015年10月。
ニューヨークの法律事務所「シャーマン&スターリング」にて、
FSGはドイツ人監督ユルゲン・クロップを口説き落とす。
「このクラブには、まだ夢を見る資格がある。」
そう語ったクロップは、休養を取るはずだった自分を再び情熱へと駆り立てられたと明かしている。
この出会いがすべてを変えた。
わずか数年でチームはプレミア王者・欧州王者・世界王者へと上り詰め、
クロップとFSGは共に“夢を現実に変えた”のだ。
【2020〜2025】成熟期:スロットの時代へ
クロップ退任後、誰もが思った。
「彼のいないリバプールなんて、想像できない」と。
しかし、FSGが選んだ新たな指揮官、アルネ・スロットはその不安を吹き飛ばした。
チームは見事に再構築され、2025年5月にはクラブ史上20回目のリーグ優勝を達成。
アンフィールドの収容人数は6万人超えとなり、
夏にはテイラー・スウィフト、ピンク、エルトン・ジョンらが公演を行う“世界的会場”へ進化。
クラブはドイツの巨人アディダスと新たな10年契約(年間6,000万ポンド超)を結び、
来季の収益は過去最高額を記録する見通しだ。
夏の移籍市場:過去最大の投資と再構築
2025年夏、FSGはクラブ史上最大規模の補強を断行。
- アレクサンダー・イサク(1億2,500万ポンド)
- フロリアン・ヴィルツ(1億1,600万ポンド)
- ユーゴ・エキティケ(7,900万ポンド)
総額約4億4,500万ポンドが投じられた。
しかし、その約半分は放出益で回収されており、単なる“散財”ではなく戦略的再投資であることがわかる。
スロットのもと、チームは若返りとタレント強化を両立。
未来を見据えた“第2次黄金期”が始まった。
⚖️ 完璧ではなかった──だが、誠実だった
FSGも常に正しかったわけではない。
- ヨーロッパ・スーパーリーグ構想
- チケット代77ポンド問題
- 「Liverpool」商標登録騒動
これらの誤りはファンの反発を受けて即座に撤回された。
FSGは過ちを認め、修正する姿勢を見せた。
その“誠実さ”こそ、リバプールというクラブを守り続けてきた最大の武器だ。
FSG 2.0──進化を止めない経営
2024年夏、FSGは経営体制を再構築。
マイケル・エドワーズは「フットボールCEO」に就任し、長年クラブを支えてきたマイク・ゴードンは一歩後方へ。
この新体制は「FSG 2.0」と呼ばれ、
複数クラブ保有(マルチクラブモデル)への準備も進められている。
リバプールにおける大胆なチーム改革、そして世界的展開への布石——
FSGの進化はまだ序章にすぎない。
15年目の現在、そして20年目へ
15年前、リバプールは“崩壊寸前の資産”。
それを、FSGは推定40億ポンド(約9,000億円)規模のスポーツ帝国へと育て上げた。
ニューヨークのオフィスではなく、
ボストンの会議室で静かにシャンパンを掲げながら、ジョン・W・ヘンリー、トム・ワーナー、マイク・ゴードンらは
「次の5年」へと目を向けている。
そして、彼らが築いたリバプールはこう証明している。信頼こそ、最強の資産である。
参照記事↓
https://www.liverpoolecho.co.uk/sport/football/football-news/fsg-already-given-game-away-32654013
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